OGシャーク土屋のプロレス人生 いじめられっ子のお嬢様から大ヒールへの大変身


写真:新井宏「撮影協力:ノースウエストルート162ブロックビレッジ」

 FMW初期のロゴマークは土屋のデザイン。ロゴが採用されたばかりか練習生として入団した。とはいえ、旗揚げ前の団体で、当時は男子と女子が同じ団体に所属するなど考えられない時代だ。不安はなかったのだろうか?

「いや、不安はなかった。大将から『誰もやっていないプロレスをめざす』と言われて、むしろおもしろいと思ったね。男も女も全部ひっくるめて1位取れたらすごいでしょ」

 そしてFMW旗揚げ戦、1対3のハンディキャップマッチにおいて本名の土屋恵理子でデビュー。最初からヒール志向だった。

「自分はヒールしか考えてなかった。確かにクラッシュにあこがれて入ったけど、対抗してたダンプ松本さんを見て、なんだか知らないけど自分は絶対にヒールがいいと思ったんだよね。実際、試合を引っ張るのはヒールだったよ。ヒールが試合の主導権を握る。強いのはヒールでいい。キャーキャー言われるのはベビー。そうじゃなきゃいけないし、ヒールが強いからこそベビーの人気が上がるんだ」


写真:新井宏「撮影協力:ノースウエストルート162ブロックビレッジ」

 全女を引退しFMWで復帰した工藤が、ヒールからベビーターン。土屋のターゲットが、工藤になった。女子初の有刺鉄線デスマッチ、女子初のノーロープ有刺鉄線デスマッチ、いずれも工藤との抗争から生まれた闘いだ。

「凶器や火炎殺法は(ミスター・)ポーゴさんから直接学んだと言うより、見て盗んだもので、工藤との闘いで築いたものだと思う。工藤とやる有刺鉄線と、ほかの人とやる有刺鉄線では全然違う。工藤とやる有刺鉄線は気持ちも違うし、有刺鉄線の中の世界が違う。どういうことかと言うと、敵なんだけど(工藤は)一番信用できる人。だから有刺鉄線の中に入っても、あの人がいるなら怖くない。敵なんだけど、このリングに入ればちゃんとした自分が出せるという安心感がある。工藤さんがどう思ってるかは知らないけどね。つまり、思った通りに思いきりできるということ。だってさ、いくら殺そうとしても絶対にこの人は死なない、絶対に立ち上がってくるでしょ。いい加減にしろよってくらいに立ち上がってくるからさ(笑)」

 両者の抗争は熾烈を極め、工藤引退試合の相手も土屋になった。97年4・29横浜アリーナでの「ノーロープ有刺鉄線電流爆破バリケードダブルヘルデスマッチ」だ。

「引退すると聞いて、その前にぶっ潰してやろうと思ったの。引退するならとことん潰してやろうとね。だけどあの人は、引退試合さえも勝ち逃げしやがった」

 この試合には、WWA女子&インディペンデントワールド世界女子の2冠王座もかけられていた。同年3・21仙台で、引退ロードの工藤から土屋が奪取したタイトルだ。過激なデスマッチがクローズアップされる引退試合だが、タイトル戦でもあったことは意外と忘れられている。「工藤さんにはいまだに会うたびに『勝ち逃げ』『勝ち逃げ』って言ってる(笑)。あの人がFMWで引退してから一度も復帰していないのは信念だろうけど、もし、もしも復帰するとしたら、自分と有刺鉄線(デスマッチ)だよ(笑)」。ベルトがかかっており、土屋が王者だったからこそ、「勝ち逃げ」のイメージが離れないのだろう。


写真:新井宏「撮影協力:ノースウエストルート162ブロックビレッジ」

とはいえ、奪われた2冠王座は同年9・28川崎スタジアムでのアジャコングとの王座決定戦で奪回した。アジャと言えば、土屋は対抗戦時代の主役のひとりでもあった。なにせ、女子プロレス団体対抗戦という大ブームのきっかけを作ったのが土屋だったのだから。

92年7月15日、全女の大田区体育館にFMWの土屋&前泊よしか(クラッシャー前泊)が何の前触れもなく突如出現。会場は騒然となった。2人の目的は、WWWA世界タッグ王者の山田敏代&豊田真奈美に挑戦状を突きつけることだった。

「あれはムカついたよね。だって、フジテレビのクルーに不審者扱いされたんだよ。押されて蹴られて殴られて。セコンドについてた全女の子に、コイツらどかしてくれと言ったのはおぼえてる。怒ったよしかちゃんが八つ当たりして放送席に『このクソジジイ!』って言ったらすごいクレームになってさ(笑)」

 この乱入を契機に、FMWはもちろん、JWP、LLPWなども含む団体対抗戦に突入。97年には土屋、ライオネス飛鳥、イーグル沢井の平成裁恐猛毒GUREN隊で女子プロレス大賞を受賞した。工藤引退後、98年には土屋がFMWを離脱するも、他団体の大物選手との闘いは続いたのである。

「アジャからベルト取ったことはおぼえてない(笑)。でも、デカさが違うし、すげえなって思った。強いヤツには悪知恵使うしかないじゃん。自分には手下がいっぱいいたから、アタマ使ってモノ使って、いいとこどりした。長与千種戦では、ふつうならあこがれの人が目の前に立ったら感激して足が震えるとかなるのに、全然そういうのはなかった。確かに、長与千種だ!と思ったけど、自分は対等に思ってたから。いや、上だと思ってた。とにかく、誰であろうとメイクをしてリングに上がってるときは相手をぶっ殺そうと思ってやってたからね」

➡次ページ(病魔との闘い・引退・ラストリング)へ続く

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