【編集長コラム】「野村直矢の快進撃」
全日本プロレス3・19東京・後楽園ホール大会で、3冠王者・宮原健斗に挑戦する野村直矢。連日、王者と激しい前哨戦を展開しているが、3・12東京・新木場大会の6人タッグマッチで、宮原から初めてフォール勝ちを収めた。
まずは渾身のジャンピングエルボー。コスチュームの赤と直矢の「矢」で「レッドアロー」ともいえる一発から、宮原の十八番、ノーザンライトボムを決め、自らの得意技であるマキシマムで見事にトドメを刺した。
「俺が新しい全日本プロレスの新しい顔になります。19日、必ず宮原健斗から三つ、とります」と、自信満々で初の3冠戴冠を予告。ここにきて、強気な発言を連発している。
25歳の若武者らしく怖いもの知らず。頼もしい限りで、そのファイトは、まさに王道スタイル。対戦相手の攻撃を真っ向から受け止める。胸を突き出して、しかも半歩、前に出る。「全部受け切って、そして勝ちたいです」と、キッパリ言ってのける。
名前に「直」の字があるように「一直線」という言葉がピッタリで、大好きな小橋建太を目標にしている。立派な体躯、パワフルな試合、闘争心あふれる表情は迫力満点。とにかく熱い。
しかも、ふてぶてしさも持ち合わせている。自分の意見を言う時には言う。
まだ、野村が若手選手のころ、レストランで、某先輩が「お前もこれを食えよ」と、自分の好みのものを野村にも注文をしようとした。ところが、野村は別の商品を口にし、小突かれようが頭を叩かれようが、とうとう迎合しなかった。
こちらがヒヤヒヤしたが、いま流行りの忖度しない姿勢に、大物の予感がしたものだ。
だが、決して協調性がないと言う訳ではなく、いわば「和して同ぜず」。論語で「人の意見に左右されたり、安易に妥協しないこと」だが、なかなか実践するのは難しい。シンがしっかりしていなければ難しい。
アジアタッグ王座を返上した時、パートナーだった青柳優馬が激怒し「邪魔してやる」と激しく罵った。
野村の反応が注目されたが「勝手に言っとけ」と意に介さず、試合でも「お前は引っ込んでいろ!」と超強気のスタンスを貫いた。
ファイトに関しては、図太い限りの野村だが、リングを離れれば、かわいらしく、女性人気が急上昇している。
普段は口数もそれほど多くなく、マイペースでほんわかしている。「まるで大型犬の子犬みたい」と指摘され、サンリオキャラクターの「ポチャッコ」に似ていると評判だ。
ある時、腰のあたりをモソモソしている。「湿布が取れちゃったんです」と、丸まった湿布を丁寧に伸ばし、再利用できないか試していたらしい。
それが無理だとわかると、残念そうに小さくたたんでポケットにしまっていた。
女性が荷物を持っていると「持ちます」と手を差し伸べる。「軽いから大丈夫」と遠慮されても「僕が持ちます!」という優しさもある。
自然に、にじみ出る優しい人間性に、世界マット界を知るTAJIRIも「野村君は本当にかわいいんです」と、頬を緩める。
様々な個性を持ったいろいろな選手がいるが、野村のようなタイプは珍しい。全日本プロレスに新たな風を呼び込んでほしいところだ。
一足早く、ノアに新風を巻き起こした清宮海斗は、まだ22歳。野村も負けていられない。
清宮に「同世代が・・・」と全日本プロレスの話を切り出すと「え? 野村さんはもう25か26ですよね?」という返事が返ってきた。
爽やかなイケメンだが、清宮もかなり強気だ。いつの日か、この2人の「強気対決」を是非見たい。
マイペースを貫きながら、時にはふてぶてしく、そして強気。何とも魅力的な野村直矢の進撃に注目だ。