『ブルーザー・ブロディ30年目の帰還』<斎藤文彦氏インタビュー②>世界に衝撃を与えた刺殺事件から30年!不世出のレスラーの知られざる人生を著者が語る

【WWE:DAZN (ダゾーン)解説】

–今も第一線でWWEでの解説WCWを毎週2回、DAZN (ダゾーン)でやられてますよね。

斎藤:あれは朝早いんですよ、6時半起きしてますよ。8時にスタジオに行かなきゃいけないんですよ。だから6時半起きして、猫に餌やって、急いでシャワー浴びて、8時から打ち合わせをして、向こうからメールでくる英語の進行表に目を通して、RAWは3時間ですね、SmackDownが2時間、RAWだとコマーシャルが15本、SmackDownだと10本で、3分のコマーシャル、3分半のコマーシャル、2分15分のコマーシャル、そのコマーシャルタイミングだけ進行表に出てるんですね。
DAZNってイギリスの会社なんですね、アメリカの試合会場にいるディレクターがUKに指示を出して、そのUKのディレクターが僕らの耳(ヘッドセット)にディレクションを飛ばしてくる。コマーシャル10秒前からカウントダウンされながら、生中継ですからね。

–緊張感ありますね。

斎藤:ありますね。しかもローマン・レインズが話してることとか、ブラウン・ストローマンが叫んでることとか、僕がその場で同時通訳してそれをみなさんにお伝えしつつ、試合の実況と解説をしながらそれについてのコメントも加えなきゃいけないじゃないですか。

–非常に難しいですよね。

斎藤:あたりまえのことですが、現在進行形の選手が多いですね。WWEはいまちょうどWomen’s Revolutionっていう路線があって、女子部門の選手がこれからどんどん増えるって話なんで。

–相当力いれてますよね。

斎藤:カイリ・セインとか、”メイ・ヤング・クラシック”に出場した紫雷イオとか。もちろんその前は、アスカとか、日本からWWEに入団した選手たちがもうスーパースターになっちゃいましたしね。
日本人枠があるわけじゃなくて、ヨーロッパの選手、南米の選手とか、外国人選手は何人いても別にいいんですって。
アメリカのメジャーリーグ野球と一緒で外国人選手は何人って決めてるわけじゃないから、才能ある人はどんどんウェルカムなので、世界中からWWEにやって来る選手たちがもっともっと増えるだろうと。

–じゃあこれからも新顔の日本人選手が行く可能性もあるわけですね。

斎藤:だからちょこっと遠征することはできなくて、日本から行ってる人だって中邑真輔もヒデオ・イタミも新日本プロレスとプロレスリング・ノアのトップスターだった選手ですよね。そういう人たちが日本の生活を捨てて行ってる。
で、あとは外国志向だったドラゴンゲート出身の戸澤陽とか。アスカはスカウトされて契約したケースですね。カイリ・セインにしても紫雷イオにしてもスターダムのエースじゃないですか。エース級がやっぱり行かないと。メジャーリーグですからね。

–これで活躍してなかったら残念なんですけど、ちゃんと活躍してますもんね。今や日本人でもメインをはれるという。

斎藤:プロレスのクオリティが評価される。中邑真輔は上から数えて何番目かですよね。で、AJスタイルズとWWEチャンピオンシップを争う戦いがあって、その後はUSチャンピオンになって、そのベルトもちょうど中邑真輔っていう他人と違うことをやるタイプのスターは、IWGPを取るよりも、IWGPインターコンチネンタルを特別なものにしたじゃないですか。
AJが持っているWWEのチャンピオンシップよりは、俺はUS王座を腰に巻いておいて、このUS王座を特別なものにしていくっていう新日本時代と同じビジネスモデルを用いてると思うんですよね。

–中邑選手は個人のアイデンティティをすごく持っているので、だからこそ向こうに行っても自分自身っていうのをしっかり出せるんでしょうね。

斎藤:ほかの人と同じことを絶対にしない人ですね。ボマイェという技はキンシャサっていうよく似た単語に変えられたけど、中邑真輔の独特の芸風を全く変えずにメインイベントのグループに入ったじゃないですか。
それが彼のすごいところですよね。

–才能ですよね。

斎藤:天才肌?天才肌というよりは芸術家肌?まさにアーティストって呼ばれてますよね。

–本当にいろんなキング・オブ・ストロングスタイルだとか、アーティストだとか、ロックスターっていう名前もつけられたりもするくらいなので。

斎藤:そうですね、それにキャラクター的に無国籍なのがいいんじゃないですか?WWEサイドはあの髪型、黒と赤の衣装とで花道を歩いて来て、あぁ彼はマイケル・ジャクソンなんだという受け止め方をしてる。
WWEみたいな洗練されているリングだとしても、下手したら塩まけとかね、おじぎしろとかね、パールハーバーみたいに後ろから襲えとか、前時代的な日本人の悪いステレオタイプがこびりついていた部分も無きにしも非ずなんだけど、中邑真輔に関してはもうまんまでやってくださいと、そこが今までの日本人選手と全く違うところ。
アスカも日本のままなんだけど、あの芸風はやっぱり大阪のお姉ちゃんじゃないですか、あの色使い。あのまんまでいいじゃないですか。
そこまで英語が堪能じゃなくても、あのまんまでいいんじゃないかと。

 

【日本人プロレスラーの英語力】

–アスカ選手はそんなに英語がしゃべれない感じなんですか?

斎藤:もともとあんまり英語は勉強しなかったんじゃないですか?今から勉強しろって言ったって、じゃあどのへんの英語が分からないのって言ったって、中学レベルから勉強し直しだねっていうことにもなるじゃないですか。
でもフレーズをまる覚えさえすれば、発音は悪くないんですよ、彼女は。「Nobody is ready for ASUKA」みたいなキャッチフレーズがあるでしょ。英語が一番うまいのは、実は戸澤なんですね。
中邑選手の場合はやっぱりちょっと癖がある。自分アクセントみたいな感じで。でもそれがまたエキゾチックなものに映ると思うんですよ。

–それが個性になるわけですね。

斎藤:あんまりペラペラだと、えー本当に日本人?って疑われる場合もあるので、アクセントがあるっていうのは、それ自体は悪くないと思います。

–斎藤さんは英語が出来るから、それは武器ですよね。

斎藤:でも僕はね、子供の頃、ミスター高橋さんでもジョー樋口さんでも、それこそ馬場さん、猪木さん、ジャンボさん、何年も何年も外国に住んで武者修行してきたでしょ?僕プロレスラーってみんな英語がペラペラなんだと勝手に信じてたんです。
それで、オトナになって記者になってそのジョー樋口さんとかミスター高橋さんの英語をすぐそばで聞いてみたら、あれ?って。あれ?こういう英語なの?って思ったんですね。
僕はレスラー全員英語ができるって勘違いしてたので。

–でも分かります。僕もそう思ってました。

斎藤:そういうイメージありますよね。猪木さんの英語はそばで立ち聞きしてると、きれいな英語なんです。猪木さんは発音がめちゃくちゃいいというか、それは猪木さんのプライドだと思うんですよね。
野球のイチローさんも本当はすごいペラペラなのに、不完全なところとか、動詞とか形容詞とか間違っちゃうのが嫌で記者会見ではあえて英語をしゃべらないらしいんですよね。

–完璧主義者なんですね。

斎藤:完璧主義者なんでしょうね。選手同士だとすごいペラペラ。ただ記者会見で話すには、動詞の最後の部分とか、変化とか、過去分詞とかが間違っていたら嫌だから話さないと思うんですよ。
僕はイタリア語は分からならいけれど、サッカーの中田英寿とかは完璧に近いらしいんですよ。だからイタリア語でコメントするじゃないですか。きっとWWEのプロレスでも近い将来はああいう選手が現れると思うんです。
猪木さんの英語はうまいし、馬場さんも意外とペラペラ。馬場さんが国際的なスーパースターだっていうのは、古くはデストロイヤーの時代からそうだったのでしょう、馬場さんとは常に英語でしゃべるんだろうなと思っていたら、予想通りでした。
馬場さんの英語は日本語と一緒で早口じゃなくてゆっくりなんだけどペラペラなんです。
馬場さん、猪木さんはやっぱりペラペラ。

–やっぱり英語は長期の海外遠征のときに身に付けるものなんですかね?

斎藤:日常生活とか。レスラーのライフスタイルのとおりだと思うんですよ。武藤さんの場合はヒアリングは100点なんですよ。相手の言ってることほとんどは理解できるのに、相手の話を聞いて理解するほどしゃべる方はそれほどはうまくない。
相手の言ってることは全部分かるんですよ、あの人は。あーこれ何ていうんだろみたいな感じで、聞くのは大丈夫だけど、しゃべる方はめんどくさいみたいな。
それから蝶野さんもペラペラですね。ドイツ語をしゃべるマルティナさんと、日本語をしゃべる蝶野さんが英語でコミュニケーションを取るから。
”蝶野語”っていって、2人にしか分からない単語がいっぱいあるっていう。

–(笑)。ご本人からも聞いたことあります。

斎藤:すごいですよ。マサ斎藤さんもペラペラというよりは”マサ語”でしたね。

–じゃあ独特なんですね。

斎藤:相手が分かろうとしてくれる。

–人間的にも分かろうとしたくなる人間性がマサさんにはありましたよね。

斎藤:グレート・カブキさんや、マサさんの時代の人は、完璧じゃないけど日常会話は全部通じるっていう生活感のある英語だと思うんですよ。
やっぱりプロレスラーって全員英語ペラペラだと固く信じてたから、僕なんかもこれは英語だけは絶対に身につけないといけないだろって勝手に思ってたんですよね。

–でもそのおかげで、唯一無二のストロングポイントですね。

斎藤:他にもいましたよ、僕の先輩でも。ゴングのウォーリー山口さんとか、同期くらいのキャリアでいうとジミー鈴木もいたり。東スポにもゴングにも英語が得意な記者が何人かいたんです。

–まだ第一線でバリバリの活躍といったところでは、第一人者です。

斎藤:僕の場合、もう手遅れだから、これしか出来ないので。不思議なんですよ、プロレスのライターを30数年やってきたら、ある日、大学の先生になれちゃったんです。
あれは不思議だったんです。プロレスの本だけれど、大学の教授会から見れば、プロレスという特殊なジャンルをずっと研究していて。
それなりに著作があるから大学の先生になれたんです。それがよかったんです。「著作、こんなに出してんの?」って言われるんですよ。
並べるとこんだけ本出してますよって。それで大学の文学部の先生になれちゃったんですよ。

–フミさんの本は、考察も深いし、本がブ厚い(笑)。

斎藤:ついつい書きすぎちゃうから(笑)。

–本当に尊敬やまないです。これからも一緒にプロレスを盛り上げて行きたいなと思います。

斎藤:こちらこそ。かつての活字プロレスがこういう『プロレスTODAY』のようなネット活字に移行してるんだって僕は実感してるから応援しています。

–ありがとうございます。今日は直近で出版されたブロディの本を掘り下げさせていただきましたが、フミさんはまだまだ多くの著作があるので、またどこかで著作についてお伺いできればと思います。今日はありがとうございました。

斎藤:こちらこそありがとうございました。

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